黒魔術部の彼等 ハロウィンネタキーン編


10月31日、学校はハロウィンイベントで盛り上がっていた。
生徒は好き好きな仮装をして、教師からお菓子をねだる。
お菓子が欲しい年ごろでもないのだけれど、その場の雰囲気に合わせてランタンを持っている生徒は多かった。
けれど、黒魔術部は普段からハロウィンよりおどろおどろしくて
そんなお祭りの中でも、いたって平常運転だった。

学校でのお祭り騒ぎはスルーしていたけれど、放課後はキーンの家に呼ばれていて
黒いマントに魔女の帽子と、簡単な仮装をして城に赴いていた。
城の中へ入ると、天井からランタンが浮かんでいる。
不気味な雰囲気とよく合っていて、何ら違和感がなかった。

「ソウマさん、ようこそ」
キーンは、いつもと変わらぬ死神のような格好で姿を表す。
「キーン、トリックオアトリート。お菓子くれないと悪戯するよ」
「私としてはイタズラでも構わないのですが、せっかくですからお菓子をどうぞ」
キーンから、茶色くて細長い箱を手渡される。
蓋を開けると、シンプルな四角いもの、丸いもの、薄緑色のもの、薔薇の形をしたものがあり
高そうな箱からしていかにも市販品のようで、ほっとしていた。

「ありがとう、さっそくいただくよ」
まずは四角いチョコレートを口に放ると、すぐに芳醇なカカオの香りが広がった。
濃厚で、味わい深くて、思わず頬が緩む。
次に薄緑色のものを食べると、爽やかなミントの味がして
甘い味がリセットされて、もっと食べたくなっていた。
薔薇の造形のものはほんのりと花の香りがして、また違う味わいがある。
夢中になって食べ、最後は丸くて細長いものだけになった。


「これ、すごく美味しい。味に飽きないし、高級品みたいだ」
「それはよかった。その1つは特に自信作なんですよ」
自信作、と聞いて手が止まる。
「中に液体を入れるのに中々苦戦しましたが、味は保証しますよ」
味以前の問題ではなくて、じっとチョコレートを見たまま動けなくなる。
硬直していると、最後の1粒をキーンが取った。

「自信作なのですから、普通に食べては面白くありませんねえ」
キーンがさっと腰元に手を回し、引き寄せられる。
距離が近付くと、本能的に危機感を覚えた。
「あの・・・液体って、まさか・・・」
問おうとした瞬間、キーンがチョコレートを咥え、瞬時に唇が重ねられていた。

「んん・・・っ・・・」
口の中に、キーンの舌と共に甘みが押し込まれてくる。
それは舌の間に挟まれ、お互いの体温でじわじわと溶けていく。
味は確かに甘みが溢れて美味しいけれど、どろりと液体が零れてきて身震いした。
まるで、以前にも感じた液体の感触のようで
避けたいと舌を移動させても、キーンに巧みに捕らえられ絡め取られた。

「は、ん・・・うぅ・・・」
飲み込んではいけないと思っても、液体が口内に溜まっていく。
舌を奥まで差し入れられ、とうとう喉を鳴らしてしまった。
とたんに喉が熱を持ち、体を通り過ぎる。
その温度は脳を侵し、思考を麻痺させるようだった。
チョコレートが溶けきっても、キーンはまだ離れない。
一滴残らず飲ませようとしているのか、交わりは続いていた。

「は・・・ぁ、あ・・・」
徐々に息が詰まってきて、吐息に熱がこもる。
また液が溜まり、もう一度飲み込むと、やっと解放された。
口内に感触の余韻が残っていて、ぼんやりとした眼差しでキーンを見詰める。


「また、変なもの、飲ませて・・・」
「変なものとは心外ですねえ。それにしても回るのが早いのですね、もう頬を赤らめて・・・。」
キーンの掌が頬を撫で、心地よくて目を細める。
体を巡る熱は下半身までは届いていないものの、時間の問題だ。
わかっていても、触れられることを跳ね除けられない。

「それとも、私の口付けがそんなに気持ちよかったですか・・・?」
息がかかるほどの至近距離で囁かれ、心音が反応する。
あの液を味わったのは、キーンも同じ。
高揚してしまった状態を元に戻す方法は、1つしかなかった。

「最初から、帰す気なんてなかったのか・・・?」
「ふふ、そういうわけではありませんが、長く触れていたいことは事実ですね」
この熱が体の隅々まで届いてしまえば、とても外へ出られなくなる。
相手を自分の元に捕らえる為に、あんな完成度の高いチョコレートまで作って。


「・・・そこまでして、引き留めたいんなら・・・・・・いいよ、ここにいる・・・」
目を伏せて、キーンの肩に頭を乗せる。
動機がどうであれ、市販品に見せかけるものを作るのは多大な手間がかかったのだと思う。
そんな苦労をしてもいいと思ってくれているのなら、よりかかってしまってもよかった。

「まあ、度数が高くとも少量ですので数十分で回復するとは思いますが」
度数、と聞いて疑問符が浮かぶ。
「留まると言ってくださるのでしたら、お言葉に甘えましょうかね」
「あの・・・度数って、どういうこと」
顔を上げると、背に両腕が回される。
逃げられなくなったと思ったとき、キーンは笑みを浮かべていた。

「あのラム酒、チョコレートとよく合っていたでしょう」
「ラム酒・・・?」
そこで、完全に勘違いしていたのだと気付く。
もはや、身を引こうとしても遅かった。

「ところでソウマさん、お菓子は持ってきていますか?」
「・・・持ってきて、ない」
「それじゃあ、イタズラですね、ふふふ・・・」
「え、あ、それは、あの・・・」
勘違いしていた、と言おうとしたけれど、唇に指が触れて制された。
とても楽しそうに、キーンが微笑む。
今夜はもう、帰れそうになかった。





―後書き―
読んでいただきありがとうございました!
やっぱり、キーン編となると怪しい雰囲気に。ここから先は発禁間違いなしな展開になるなる。